ある石川賢ファンの雑記

石川賢の漫画を普及し人類のQOLの向上を目指します

石川賢紹介 第八回 ゲッターロボアーク

 

 

ゲッターロボアーク」

 

「俺の名は流拓馬。流竜馬の息子だ!!!」

 

本作は未完である。そして残念なことに石川賢は故人である。故に本作の続きはない。なにより悲しいのは、本作が文句なく面白いことである。ゲッターロボサーガの集大成に相応しい内容で、画力、構成力、演出力、キャラの見せ方、全てがノリに乗っている。ノリに乗ったまま第一部完のクリフハンガーを我々は突きつけられるのだ。こんなにも、面白いところで終わってしまう。未完の大作と言われるとある意味では未完であるままが最高の状態と取る人もいる。広げた風呂敷や期待に作者の能力が追い付かないために、未完のままでよかったという意見だ。しかし、こと石川賢に至ってはそうではない。描けるなら、描いたなら期待以上のものを作り出すと私は信じている。だからこそ、私は本作を強く薦める。片道切符のゲッターの旅。永遠の旅路はとても楽しいものだ。何よりも。征こう友よ!

 地球を呑み込もうとする謎の不可触領域ストーカ1。それがエネルギーを発する時、災厄と敵が現れる。敵の狙いは早乙女研究所地下に眠るゲッタードラゴンだ。地球は壊滅状態、そんな中、奴らは現れる。ゲッターチームだ。流竜馬の息子であり生まれつきゲッター線を大量に浴びたゲッターの申し子拓馬。恐竜帝国皇帝と人間のハーフであるカムイ。タイールの兄、山岸獏。三人が乗る機体はゲッターロボアーク。アーク、キリク、カーンの三形態に変形する早乙女博士最後の遺産。真ゲッターロボよりも更に禍々しく、棘と刃を生やし、牙と爪で敵を引き裂く。まさに悪魔のマシン!

 この物語を彩るのは因縁だ。拓馬がゲッターに乗る理由、それは復讐だ。母親を殺し、敵に寝返って地球を滅ぼそうとするカーターマクドナルを殺すためだ。カムイは先の恐竜帝国との戦いで、恐竜帝国に攫われた母から生まれた。その任務はスパイだ。恐竜帝国は地球を守るために人類と手を結び、協力を申し出ながら寝首を掻こうと企んでいた。そのために、ゲッター線に耐えるハチュウ人類のカムイを送り込んだのだ。カムイは母親を人質に取られ従っているが、人類とハチュウ人類との間で苦悩する。そして、奴だ。神隼人を置いてはゲッターを語れない。唯一研究所に残った隼人はその眼でゲッターの歴史を見ている。そして、地下でゲッター核分裂を繰り返しながら進化している弁慶とゲッタードラゴンを守り続けている。ゲッターロボサーガは因縁を巻き込みながら続いていくのだ。

 未知の敵と戦いながら、物語はゲッターの真理に近付いていく。ついにゲッターチームは敵の本拠地を突き止める。それは未来だ。時空を超えてゲッターチームと恐竜帝国のゲッターチームは未来に飛ぶ。そこで見たものは、宇宙で侵略を続けるゲッターであった。それを指揮するのはなんと巴武蔵だった。武蔵はゲッターの記憶を基に作られた人造人間である。その存在意義はゲッターの尖兵。進路にある星を滅ぼし文明のかけらほど残さないほど殲滅することが使命である。まさに衝撃であった。一つの正義は百万パワーだったゲッターはもういないのだ。あるのは侵略者、ただそれだけだ。そこで拓馬たちはゲッターの歴史を知る。宇宙に進出した人類は未知の敵に出会う。戦いに敗れ疲弊していく人類。その時、地球から飛び立つ巨大戦艦があった。それがゲッターエンペラーである。ゲッターエンペラーは立ちふさがる敵を次々と滅ぼし、星域を侵略し、更に戦線を広げていった。武蔵はそれ以上は語らなかった。時空に影響を及ぼすことを恐れたのと、いつか拓馬たち過去の人類が自分たちに追いつくことを知っているからだ。ゲッターが何をさせようとしているのか、そしてこれしか道はないことが。

 未来での戦いでは、無数のゲッターが参戦し、ゲッターロボアークを援護した。そしてゲッターチームは敵と対峙する。カムイはカーターマクドナルから未完成の超兵器バグを貰う。恐竜帝国のために、人類を滅ぼせと唆す。マクドナルの目的はただ一つ、ゲッターを滅ぼすこと。彼の意思は百鬼帝国の遺志そのものである。死の間際、思うのはブライ大帝の顔であった。一方拓馬はあっさりと仇を討ってしまったことに困惑する。

 

 時間は飛ぶ。地球にて、拓馬が乗ったゲッターロボアークとカムイが乗ったバグが対峙する。そして現れる、ゲッタードラゴン。そして……。

 そう、ここで第一部完だ。あまりにも惜しい。特に惜しいのは拓馬とカムイの関係性だ。カムイは自分の母親以外の人類に仲間意識はなく、ハチュウ人類よりだった。一方拓馬はチームである以上カムイのことを気にかけていたのだ。恐竜帝国の博士からカムイ出生の秘密や皇帝がカムイと母親を会わせる気がないと知ったら憤り、出陣式のどさくさに紛れてカムイと母親を触れ合わせる気遣いを見せたのだ。そこでカムイの気持ちの氷解し始める。だからこそ、カムイはマクドナルの言葉に一度は抗ったのだ。けれど、未来において人類と自分の扱いの差や、ゲッターの所業を知ったカムイはクーデターを起こして恐竜帝国を支配し、人類に宣戦布告するのだ。そこにある拓馬とカムイの友情、葛藤、それらが抜け落ちている。もし描かれていたらと思わずにはいられない。なのに、未完なのだ。

 だとしても、本作は読むに値する。否、読むべきだ。何故なら、石川賢は常に進化する漫画家だからだ。アークこそが史上最高の最も進化したゲッターで最も面白いからだ。特に私が好きなのはコックピットの描写だ。全天周モニターから覗く戦場の描写は躍動感にあふれ、緻密な美に満ちている。石川賢の原稿は重いと言われている。原稿にしみ込んだインクの量が桁違いなのだ。それほどまでに緻密な描きこみをしながら躍動感と読みやすさを両立している。漫画界の至宝ともいえる職人芸。これを見ずして死ねるわけがない。これを読まずして何を読む。さあ、読むのだ!

 よい石川賢ライフを。