ある石川賢ファンの雑記

石川賢の漫画を普及し人類のQOLの向上を目指します

石川賢紹介 第十回 魔獣戦線

「魔獣戦線」

 

 終末の日は近い! 神は無慈悲に裁きを下す。ソドムとゴモラになった地球に滅びが迫る。そんな中、13人の使徒は新たな世界を生きる新人類を作り出そうとしていた。

 本作は石川賢ダイナミックプロに復帰した少し後に描かれた作品です。なので絵柄が初期のものです。石川賢は初期中期後期で絵柄の変遷がかなり激しい作家です。まあなんでこんなこと今更説明するかっていうと私が持っている双葉文庫名作シリーズの魔獣戦線は後期の絵柄で加筆されてるんですよね。差がかなり激しい上に唐突で困惑するんですがが、一つめちゃくちゃいい加筆があるんですよ。それは終盤の戦闘シーンの見開きなんですがとても躍動感があって最高なんですよ。なので加筆があっても驚かないでねってのと文庫版で読む人はそこを楽しみにして欲しいなってそんな前書きです。

 魔獣戦線、それは人と神々の戦い。世界中から集められた13人の天才科学者、13人の使徒。彼らは新人類を作り出す実験をしていた。その中の一人、久留間源三は自らの妻と息子すらも実験体にしてしまった。新人類は細胞を分解し動物と融合させた新たな生命体だ。源三博士もすでに自分の肉体で実験を成功させている。その条件とは動物と心を通わせることだ。実験動物と心を通わし、いつか土地を買って放し飼いにして一緒に住むことを夢見ていた優しい少年久留間慎一は父親の手によって出来損ないの魔獣となってしまった。失敗作を処分しようとする源三に母親の静江が襲い掛かった。しかし返り討ちになってしまう。死の直前、慎一は母を奪った使徒に怒りを燃やす。生き残ったあかつきには全員八つ裂きにすると心に誓った。その時である、雷が落ちて研究所は炎に包まれた。使徒は逃げたが、崩れゆく研究所の中で母と子を電撃が包んだ。静江の細胞が慎一に流れ込む。魔獣が生まれた。獣の力と鋼の復讐心をその身に宿した最強の魔獣が生まれたのだ!

 ダークな世界観、復讐、そしてバイオレンス。これこそ石川賢の持ち味だ。それゆけコンバットやタロウの時期にはおぼろげに見えていた個性が独立作家期を経て確立されたと言っていいだろう。また、本作はデビルマンの影響が見て取れる。キリスト教モチーフ、主人公のシルエット、神との戦いなどがそうだ。しかししっかりとしたオリジナリティも存在する。まずはその戦闘スタイルだ。慎一の戦い方は正に獣だ。牙で、爪で、敵を八つ裂きにする。その爪や牙はどこから出るのか。それはいたるところからだ。動物と融合した慎一はその体内に動物を飼っていると同じである。腕からも、足からも、腹からも慎一の友達は飛び出して相手に噛みついたり引っかいたりできるのだ。相手の顔を掴み、腕をライオンに変えて噛み殺す様は正に魔獣。また敵の攻撃に対し喰らった部分を変化させて攻撃を食い殺すなど戦い方はバリエーションに富んでいる。それだけではない。慎一の体内に宿る動物たちは皆慎一の友達だ。特に仲が良かったライオンのゴールドは慎一の主力として活躍する。殺された父の復讐であり、慎一の共犯者でもある。

 脇を固める仲間たちも魅力的だ。青森のキリスト伝説をモチーフとした予知能力を持つ一族。その中に13使徒と戦う者がいた。天外真里阿と富三郎だ。真理阿は慈しみに溢れた少女で予知の他にも不思議な力を持っている。敵である使徒も彼女を畏れ敬っている。物語の鍵を握る謎に溢れた存在だ。富三郎はひょうきんな子供で金にがめつく俗っぽいコメディリリーフ、壮大なスケールの戦いを間近に見て驚愕をする驚き役でもある。そんな愉快なパーティが戦っていくのだ。復讐に全てを捧げた慎一が仲間との交流によって人間味を取り戻していくのもこの作品の楽しみだ。

 何よりも刮目すべき場面は圧巻のラストだ。最後に訪れる黙示録の世界。世界の終焉。神々に宣戦布告する慎一と光の中に始まる永遠の闘争。石川賢の黙示録はここから始まるのだ!

 

「神との戦い」

 絶対者との果てしない戦い。それは石川賢作品によく登場するモチーフだ。前に紹介したゲッターロボ神州纐纈城。魔界転生虚無戦記、それに魔空八犬伝や禍などだ。そして本作はそれが最初に登場する作品である。私個人の考えとしては、デビルマンが強く影響していると推測している。デビルマンが漫画界に与えた影響はあまりにも大きい。それは永井豪本人すらも囚われるほどに。至近距離にいた石川賢ならなおさらだろう。デビルマンのラスト、神との戦いと世界の終わり。そのアンサーを多くが求め続けた。永井豪自身が出した答えがバイオレンスジャックなら、石川賢の答えは魔獣戦線から続く果てしない闘争の物語だろう。例え世界が、摂理が、運命が、人類を滅ぼそうとしていても、戦い続ける。戦い続けるしかないのだ。その理由は一つ。愛する者を守るためだ。ただそれだけのために永遠の戦いに身を投じるのだ。描いて描いて描き続けて石川賢はずっと答えを求め続けたのだろう。その無限の旅路の始まりがこの作品なのだ。これを読む者は心して読め。これこそが石川賢だ。無限の闘争に足を踏み入れる覚悟はあるか。虚空の向こう側に旅立つ準備はできたか。今がその時だ。

 よい石川賢ライフを。