ある石川賢ファンの雑記

石川賢の漫画を普及し人類のQOLの向上を目指します

便乗映画紹介 仮面ライダー一号

 仮面ライダー45周年記念作品「仮面ライダー一号」特撮史上最も濃厚な藤岡弘、を撮った映画である。かつて石ノ森章太郎先生は言った。本郷猛がどうなったのか、それは藤岡くんのその後の人生を見ればわかる。その言葉を実感させるのがこの映画だ。本作のあらすじをかいつまんで説明すると、本郷猛がその人生と言う戦いの中で得たいくつもの教訓を、その生きざまを通して若者に伝えるために戦う話である。そして、本郷猛は、その戦士として、仮面ライダーとしての定めに向き合い、若き仮面ライダーに新たな道を示す。私は本作が色んな意味で好きだ。一種のカルト映画とも言えるほどの尖りっぷり、そしてそれをなんとか児童向け作品の枠に押しとどめる仮面ライダーゴーストの存在。いくつもの偶然が重なった奇跡的な作品である。そのバランスと危うさが私を魅了して止まない。英雄と命、二つのテーマが本郷猛、あるいは藤岡弘、の伝えたいメッセージと驚異的な親和性を誇っている。そして天空寺タケルのキャラクター性。タケルの英雄に学び成長する特性や、その優しさ、献身の危うさを感じさせる振る舞い。濃縮還元された藤岡弘、という劇薬を薄めるでも反発するでもなく受容し、視聴者の心にクッションを作ってくれる。藤岡弘、の驚異的な存在感には一歩間違えば全てを持って行ってしまう危険性がある。本作が曲がりなりにも客演映画である以上それは良くない。破綻と言ってもいい。しかしそうはならなかった。本郷猛の物語であると同時に本作は天空寺タケルの物語であり仮面ライダーゴーストの一部として成立している。英雄との邂逅を通して成長し、命を知っていく仮面ライダーゴーストのフォーマットを踏襲している。45周年の作品がゴーストであったことは幸運であり、歓迎すべき奇跡だ。

 本作はメタフィクション的な要素を含んだ映画である。冒頭の石ノ森先生の言葉通り、本作が描くのは本郷猛である藤岡弘、の人生である。藤岡弘、は俳優と言う戦場の中で戦ってきた。前代未聞の番組に体当たりで挑戦し、再起不能の大けがを負いながらも立ち上がり、戦場に舞い戻った。単身異国にわたり、真のサムライが何かを追求し世に知らしめようとした。ヒーローとしてのイメージに縛られ、それを受け入れるまでの苦悩。セガサターンで遊ばない不貞の輩を投げ飛ばしたこともあった。数多もの戦場をかけた武士の人生。本郷猛の戦いは藤岡弘、の戦いである。そしてこの映画における本郷猛の描き方は現代社会と藤岡弘、の在り方を示している。現代社会に改造人間である本郷猛は馴染むことができない。現代社会において藤岡弘、の在り方は異物であり遺物である。その事実が本作には描かれている。どこに行っても藤岡弘、は異物であった。その生き方の重みが若者たちには理解できない。高校で生命について語る藤岡弘、とその周囲の反応からそれを読み取ることができる。同じ戦いに身を置く存在であるゴーストのライダー達にもその存在は遠い。それは藤岡弘、という存在がキャストにとって神話の存在とも呼べるほどの壁があることを示している。現代社会を生きる戦士の悲哀、孤独を現代社会を生きる藤岡弘、の特異性によって表現しているのだ。藤岡弘、の精神性、生き様は戦場のそれであり、銃後で生きる人間にはわからない。藤岡弘、とはいったいなんなのか。その答えは出ない。私如きでは一生掛かっても出ないかもしれない。それでも考えなければ、答えを求め続けなければならない。それが生きること、生き抜くことなのだから。

 藤岡弘、は戦い続ける。かつて負った大けがのせいで関節のボルトを固定するために鍛え続けなければいけない。日々が戦いであり、死と隣り合っている。本作もまた、戦い続ける。戦士の物語である。倒れても立ち上がらざるをえない。止まることが許されないのが仮面ライダーだ。風を受けて死から蘇るその姿、まさに英雄である。火葬と復活のシーンは宗教的な美しささえある。その一方で死の安息ですら許されない悲哀も感じさせる。本作の終盤で本郷はおやっさんの忘れ形見である美由と小さな幸せを守ろうとする。しかし、ショッカーによってそれは壊される。運命が本郷に、藤岡弘、に戦い以外の道を許さなかったのだ。自由と平和の為の戦いが続く限り、真の自由と平和はこない。その過酷な現実が重くのしかかる。我々は、自覚していないだけでまだ戦場にいるのだ。

 本作で藤岡弘、が何を伝えたかったのか。それは言葉にすると陳腐になってしまいそうなものだ。「ライダーはいつも君たちのそばにいる。何があっても君たちと一緒だ。生きて生きて生き抜け。ライダーは君たちと共にある。」これが許される最小で最大の単位だろう。これ以上足すのも削るのも野暮だ。

 50周年を迎えた今、改めて本作を見ることに意義があると私は思う。だからこの記事を書いた。仮面ライダーの歴史に刻まれた大きすぎる傷跡、投じられた巨大隕石、見る人に語り掛け、生き様をあり方を考えさせる本作を見ることで仮面ライダーがこの世界に在る意味を問うことができるだろう。

 

 

仮面ライダー1号

仮面ライダー1号

  • 発売日: 2016/08/03
  • メディア: Prime Video