ある石川賢ファンの雑記

石川賢の漫画を普及し人類のQOLの向上を目指します

最近見た映画感想 機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ

 私もこのブログで流行りの映画なんて紹介すると思っていませんでしたよ。本当に。そもそも閃光のハサウェイが劇場公開してヒットするなんて誰が予測できますか。気合の入った宇宙世紀オタクしか喜ばない内容だと思ってたのにいまやハサウェイからガンダムに入りましたなんて人も見るまでに。いやはや、世の中何が起こるか分かりませんね。そんなこんなで始めます。

 

 今回の感想、まず一つは面白かったということ。次にこれでいいの? という気持ちです。だって原液なんですもの。これまでテレビやYouTubeで映像の先出しや逆シャア無料公開をしたり世界観の説明をしたり、映画の冒頭にも簡単な宇宙世紀の歴史を文字で出したりしてはいます、いますけどもこれは閃光のハサウェイなんです。ハッキリ言って一般ウケするような内容ではありませんよ。名作ですよ、名作だと思ってますけど1900円も払って病んだテロリストになった青年が潰れていく話をわざわざ映画館に見に行くなんてどうかしてるじゃないですか。しかもですよ、その点に関してはこの映画、まったくぼかしても変えてもいないんですよ。むしろ正確に、残酷なくらいにわかりやすく描写しているんですよ。冒頭のハイジャックシーンの凄惨さや偽マフティの無軌道さ愚かさは痛いほど伝わり、この作品がどんなものか心に身構えさせます。入念なロケハンによって描かれるダバオの煌びやかな風景とその裏にある傷ついた自然や人の闇は宇宙世紀という時代の歪みを表す何よりも雄弁な材料となるのです。マンハンターによって弾圧される人々の苦しみ、その一方で地球にしがみつく連邦の官僚、大義を叫びながらも市井と乖離するテロリスト達。それぞれの立場の光と闇を描き、一概にだれが正しくて誰が間違っているのかわからない。そんな混沌を一ミリも美化せず劣化させず描いているのです。特に印象に残ったシーンはハサウェイがタクシーの運転手と交わした会話です。ハサウェイが所属するマフティーは地球保護を掲げる環境テロリストです。その最終目的は地球に住む人類を一人残らず宇宙に移住させ、地球を休ませることです。しかしながらそんな主張は今を生きるのに精いっぱいな人間には伝わらない。彼らにとってマフティーとは連邦を叩いてくれる都合のいい存在でしかなく何を言っているかなんて微塵も興味がないのです。だから次はマンハンターを叩いてくれなんて無責任に口走るのです。そんな態度にムッと来たのかハサウェイはマフティーは千年先を考えているなんて反論してしまう。それに運転手は暇なんですねえ、なんて返すんですよ。明後日のこともわからない人間からしたら思想に殉じられる人間は暇人なんです。この残酷なまでの温度差を余すところなく描いているのが本作なのです。マフティーの思想、ハサウェイの思想、それらは異なるものですが、そのどちらにもこの映画は徹底的に冷や水を浴びせてきます。ハサウェイが賢そうに語る言葉はすべて上滑りしていくのです。そして何よりも戦闘シーン。これが一番大事です。なぜならこれはロボットアニメなのですからロボットが戦うシーンのために存在するのですよ。しかしてどうだったか。勿論最高でした。しかもただのアクションではありません。ドラマの乗ったアクションです。一挙一動に満たされる思想と情動が素晴らしく、刺激的でした。特に市街地戦のシーンはMSと人間のサイズ差やその存在の巨大さと逃げ惑う事しかできない絶望感が臨場感たっぷりに表現されていました。ビーム一発で目の前の物全て吹き飛ぶあっけなさ、崩れる柱とその上にいるMSの対比、巻き添えで死んでいく人々、そう、人々の死んでいく様のあっさりとした描写がMSの強大さを表しているのです。ホテルではハサウェイを弄んでいたギギが戦場を前にして怯える様と自分が作り出した戦場を冷静にギギを連れて逃げていくハサウェイの対照的な画作りが最高でした。MS戦とドラマの同時進行は富野監督の得意技ですが、そこに新たな可能性を見出した村瀬監督もまた一流と言えるでしょう。このシーンの凄惨さを強調することでマフティーが起こすテロの実態を観客にこれ以上ないほど理解させ、ハサウェイの持つ矛盾を印象付けるのです。また飽くまでMSは兵器、マシーンであることを徹底しており、その恐ろしさと冷たさで敵味方どちらも暴力をまき散らしていることを意識させます。

 極めつけは本作のラスト。クスィーガンダムの空中受領とペーネロペーとの戦いです。ペーネロペーは正に怪物マシン。特徴的な鳴き声と他のMSを圧倒する機動性、飛行能力、ガンダムという名に恥じない機体です。それに立ち向かうのがハサウェイの乗機クスィーガンダムです。ペーネロペーのコンセプトを進化させた最新鋭の兵器。製造経緯に宇宙世紀の闇がたっぷりと詰まった曰くつきの機体です。高速飛行とパイロット同士の駆け引きを高いレベルで両立しておりとても満足感がありました。実際あんな短い間に複数の武器を使い分けてそこにブラフまで仕込むなんて神業ですよ。何よりすごかったのはレーンとハサウェイのパイロットしてのレベルや性格がアクションの中にきっちりと描かれていたことですね。アクションの中に血が通っているというかとにかくただのアクション以上のアクションです。これは見る価値ありますよ。

 ここまで長々と語ってきましたがまあ言いたいことはすごい面白かったってことですよ。だからこそ、全部は語りません。みなさいよ貴方たち。それでは。