ある石川賢ファンの雑記

石川賢の漫画を普及し人類のQOLの向上を目指します

最近見た映画感想 グンダラ ライズオブヒーロー

 

「その一瞬に価値があるから」

 

 前置き

 最近、面白い作品ばっか見るようになった。正確には期待値の高い、自分が今まで見てきたような作品に似てる作品ばっか見ている。別にそれは悪いことじゃないと思う。人生は限られている。私はそれについて了承したつもりはないがどうやらそうらしい。その有限の時間の中でつまらない作品に割く時間は徒労と言ってもいいだろう。見なきゃよかったと思う作品はいっぱいある。やらない後悔よりやって後悔なんて言葉は大嫌いな私からしてみればそれらは本当に無駄でしかない。あの時やらなかったらと思わない日はない。でも、その日私は躊躇したことを後悔した。ツタヤで見つけた一作の映画。それが「グンダラ ライズオブヒーロー」だ。手に取りはした。けれど、最新作のシールを見て私は棚に戻した。でももう一回手に取った。裏を見るとヒロインの吹き替えが平山笑美さんだった。少し惹かれたけど、結局棚に戻した。理由は色々ある。まず、400円は高いと思ったからだ。100円なら気軽に借りれたかもしれない。口直しにジャスティスリーグも借りて精神の差し引きをゼロにする誤魔化しも聞いたかもしれない。でも400円のダメージはさすがのジャスティスリーグでも癒せないと思ったからやめた。もう一つは、内容にそこまで期待できなかったからだ。見た目がなんとなくパチモン臭い。最初に思ったのはザボーイズのブラックノワールに似てるなだった。あと、ユニバース構想を狙っているというのも少し躊躇させた。こういう二番煎じはよほどうまくやらないと失敗するものだ。予算をかけたダークユニバースだって失敗したし、DCだってワンダーウーマンまではちょっと危なかったと思う。MCUだってハルクのあたりは怪しかった。ファーストアベンジャーの出来は良かったけど知名度や人気の面だとアイアンマン一強感は初期は拭えなかった。そんなこんなで当てたらでかいが茨の道というのが私のユニバースものへの印象だ。脚本の連携やスケジュール、宣伝もさることながら単品での完成度が一番重要だと思う。次の映画を見せる前に一作で満足させる。それを続けて初めて続きありきの作り方が受け入れられると思うのだ。しかし勘違いしたユニバースものは最初から続きありきで作るから一作の満足度が低くて打ち切られるのだ。ユニバースでなくても無駄に続編を匂わせて死んでいったシリーズはいくつもある。だから無意識に私はこれもそうだと思ってしまった。だから、借りなかった。だが今になって見たくなった。なぜだろう。これを見ないととても後悔する気がした。そしてこれを見たら、俺は「グンダラ ライズオブヒーロー」を見たんだと言える。そう思ったんだ。自分の意思で選択して、この映画を見たんだと言える。そんな気がしたからだ。あと必要なのは理由だった。またツタヤに行って、手に取った。裏を見るとヒロインの吹き替えが平山笑美さんだった。少し惹かれた。だから借りた。理由なんてそれだけで十分だ。理由の選り好みをしてこのチャンスを逃したくなかった。忘れないうちにこれを見て、「グンダラ ライズオブヒーロー」を見た男になる。その気持ちしかなかった。

 それでは紹介しよう。本作はインドネシアのコミックを原作としたブンミラゲットシネマティックユニバース作品の第一作として作られた。雷の力を得て悪と戦うヒーローグンダラの誕生を描いた一作だ。グンダラに変身するのはサンチャカという青年。ストーリーの流れを大雑把に説明すると、まずサンチャカの壮絶な子供時代から始まる。正義感に溢れた両親に育てられたサンチャカだが、両親を失って天涯孤独となり正義と言うものの無力さを知るのだ。父親は労働者の権利を守るためストのリーダーとなるが、仲間に裏切られ、暴動の最中に刺された傷で死んでしまう。慟哭するサンチャカはその時初めて自分の力を発現させる。しかしその反動で気絶してしまう。更に貧しくなったサンチャカは街に出稼ぎに行ったまま母が帰らず、一人で生きていくことになった。それでもまだ正義感の強いサンチャカはチンピラのリンチを止めようとして自分が標的になってしまう。耳を切られ、絶体絶命の危機に陥ったサンチャカを助けたのはウアンだった。子供の身で格闘術を身に着けたウアンは優しくも厳しい兄貴分となった。ウアンは面倒事に関わらないことを信条としていた。「お前が強くなれば俺はお前に関わらずに済む」そう言ってウアンはサンチャカに格闘術を教えるのだった。やがて二人は安全な南東に移り住もうと列車にただ乗りしようとするが、はぐれてしまう。この経験からサンチャカは自分の安全だけを考えて困っている人には関わらないように生きていくようになった。そんなサンチャカだが、運命は彼を放っておかない。話は青年期に移行する。大人になったサンチャカはアパートの大家がチンピラに追われているスリを助けるのを目撃する。「自分のことだけ考える人生に意味はない」その言葉が彼の心に引っかかっていた。やがてサンチャカは隣室の女性ウランが市場を狙うマフィアに抵抗していることを知り、抗争に巻き込まれていく。なんのために戦うのか、何のために生きるのか、サンチャカは己の力と向き合いその戦いは国中を巻き込む大事件と発展する。

 ストーリーは大いなる力と責任を問う王道のヒーローストーリーである。それを彩るのはインドネシアの土と血に塗れた風だ。まず、本作はとにかく治安が悪い。チンピラ集団がそこかしこにいて襲ってくる。武器も木の棒と原始的だ。次に議員はマフィアに賄賂を貰っているか、死んだかの二種類しかいない。本作のメインヴィランのペンコールは複数の議員を従えるマフィアのボスだ。そしてカリスマ性がある。父親が濡れ衣で殺され、人身売買をする劣悪な孤児院に送られたが孤児院の子供を従えて反乱を起こし、そのまま殺し屋集団と仕立て上げて成り上がった壮絶な経歴を持つ。とにかく治安が悪く誰もがすぐ暴力に走る。そんな世界で愛する人を守り、正義を貫くというのは簡単なことではない。バットマンゴッサムシティを彷彿とさせるが、あれは一種のファンタジーとして見ることができる。しかし本作のインドネシアの治安の悪さはリアルなのだ。そして現在進行形でもある。そんな中にヒーローを描く。この意味が分かるだろうか。ジョーカーが差し迫るリアルな破滅を描いた黙示録であるとすれば、本作は破滅を回避しようとする足掻きではないだろうか。サンチャカの戦いが市民や政治家を動かしたように現状が変わって欲しいという希望をこの映画に託しているのではないか。スクリーンの向こうにあるリアルが画面からヒシヒシと伝わるのだ。サンチャカの守りたいもの、平和の意味と重み、そしてなぜ戦うのか、その価値とは、その答えを真摯に描いているのは好感が持てる。

 次にいいと思ったのが演技だ。私が特に目を見張ったのは子役の演技だ。幼少期のサンチャカの眼。そこに世界の残酷さを見据える純粋とそれを壊す運命の濁流を見た。独りぼっちの家で食料を漁り、ズッキーニを貪り食うシーンがある。まさにそれは貪り喰らうのである。生きるためだけの食事、捕食。そして、父を売った労働者の家族から償いの食料が届けられるシーンだ。怒りのあまりそれを蹴とばすも、土の上に散らばったそれを拾って食べるのだ。これ以上なく残酷な世界を表現している。インドネシアで作られたからこその臨場感だ。

そしてなによりも、アクションがいい。シラットというものだろうか。スピード感や攻撃をいなす柔軟さ、無駄のない洗練された動作、現代格闘といった趣で素晴らしい。しかもアクションシーンが多いのだ。これが嬉しい。ヒーローの苦悩も嫌いではないがやはりアクションこそ華だ。アクションが良ければ他の要素を差し置いて好きになれるほどアクションは大事だ。だからこの映画はとても好きになれた。コスチュームを着る前が割合としては多めだ。特にいいと思ったのが幼少期のウアン登場シーンだ。子役だというのにアクションは大人に引けを取らない。そしてそのウアンの動きがサンチャカの中に生きている。ファイトスタイルで絆を表す表現。嫌いではない。かなり好きだ。そして終盤、更に嬉しいことがある。サンチャカとペンコールが本格的に対立する。ペンコールは自らが育てた殺し屋集団を呼び寄せるのだ。彼らはそれぞれの業界に溶け込んでいる。しかしひとたび「父親」からの呼び出しがあれば殺し屋として完全武装で馳せ参じるのだ。バイオリニスト、医者、鍛冶屋、彫刻師、拳法家、女子高生など多種多様だ。快傑ズバットの刺客軍団を彷彿とさせるトンチキさだ。私はこういうのが大好物である。特にお気に入りは鞄で拘束してペンで殺す女子高生殺し屋だ。バイオリンソード使いも捨てがたい。マチェーテキルズとかデスペラードとか好きな人はかなり楽しめると思う。この殺し屋集団だが、ペンコールはそれぞれの分野で一流になれるよう教育を施しているというのも面白い。バイオリンソード使いが死んだ時によく練習しているのを聞いていた思い出を語るのは印象に残る。拳法家はジョンウィックにも出ている人でサンチャカとタイマンするシーンも与えられている目立ちっぷりだ。仮面を後ろに被っていてまるで背中に目がついているような動きをする。終盤まとめて処理されたのはちょっと残念だ。CGではハリウッドに適わない分得意分野で魅せようという気概が感じられて素晴らしい。ただちょっとチンピラを穴に何度も落とすシーンはゲームみたいで笑ってしまった。最終決戦で同じ穴が出てきた時はもしかしてこれがサンチャカのフェイバリットなのかと思った。

 最後はちょっと問題点を語ろう。まずは画面のチープさだ。こればかりは仕方がない。次に、MCUっぽいシーンだ。序盤の独自性を見た後だと若干陳腐に見えてしまう。もっとインドネシアらしさを出して欲しいと私は思う。インドネシアらしさについてあまり分かってないけども。ただスーツを自作するシーンはよかった。最後に若干の不完全燃焼さだ。ラストのピンチに他のヒーローが駆けつけて助けてくれるシーンがあるのだが、そこはサンチャカの力だけで〆て欲しかったなと思う。あとラストが新たな敵が現れるシーンで終わる感じなのでそこがすっきりしないと言える。

 さて、ここまで解説してどう思っただろうか。やはり便乗の域をでない代物か、それとも意欲作と見えるか。それは見ないとわからない。ただ私は見て後悔はしていない。こんな台詞がある。

「俺は戦う。平和は長く続かないものだと教わった」

「なら何故戦う?」

「その一瞬に価値があるから」

 私は選択した。この映画を見ることを。その一瞬に価値があったと私は胸を張って言える。勇気を出す価値があった。だから貴方にも進める。その一瞬にはきっと価値がある。

 

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