ある石川賢ファンの雑記

石川賢の漫画を普及し人類のQOLの向上を目指します

石川賢紹介 番外編 実写極道兵器

「地上最強のチンポ!」

 

 石川賢作品の実写化。10文字足らずで表せる地上最大の蛮勇である。無謀である。正気の沙汰ではない。そんな偉業をこの映画は成し遂げた。山口雄大との共同監督と主演を務めるは坂口拓。日本の俳優の中でもアクションと男臭さに定評のある役者である。しかしそんな彼でも極道兵器を演じることができるのか。石川賢作品を映像化できるのか。私は見る前にそんな不安を抱えていた。けれどそれは杞憂だった。これこそまさに実写化だ。原作への愛、リスペクトある再現。そして媒体の違いを意識したアレンジ。どれも高クオリティであった。個人的な意見だが実写化において一番必要なのは最後の項目だと思っている。自分のペースで見ることができる紙媒体と製作者のペースでしか見れない映像媒体では間の取り方が文法が違う。また表現技法においても両者における映えの基準は異なる。ただ再現するだけでは映像にしただけで映像化したことにはならない。作品の空気を保ちつつ映像に適した表現に作り変えることが映像化なのだ。似せればいいというわけではない。最近の作品だと岸辺露伴は動かないなどがいい例だろうか。あれは原作の雰囲気を見事に再現していた。冒頭の強盗に取材するシーンは初見の視聴者に岸辺露伴を説明する見事なシーンであった。原作にないシーンでありながらその言葉、立ち振る舞いは確実に岸辺露伴から出たものである。ビジュアルもいい。原作のビビッドな彩色や奇妙奇天烈なアクセサリーを実写の世界に合ったシックなものに変えているにも関わらず岸辺露伴である。表面的な要素でなく本質を見極め、それに寄せることがよい実写化である。極道兵器はそれができているのだ。

 大筋は原作の解説記事で語ったので今回は原作との相違点や実写化ならではの長所に絞って解説していこう。

 まず最初にキャスティングだ。私が特に関心したのは将造と倉脇、そして鉄っちゃんだ。坂口拓はパット見だと将造としてはイケメンすぎるように思える。だがその印象は10秒と持たず消し飛んだ。将造の持つ気、その男ぶりというものをその身にまとっている。勢いに溢れたセリフや歩き方や煙草の吸い方、どれもが将造だ。見ていく内にだんだんと将造のイメージが寄っていく。そんな感覚がある。次に鶴見辰吾演じる倉脇だ。本作は倉脇編を軸に二時間の尺に収まるようストーリーを再構成している。つまり本作のボスというわけだ。故に原作よりも存在感を出さなくてはならない。その要求になんなく答えている。将造が陽の狂気ならこっちは陰の狂気だ。変態、陰湿、外道の極みだ。なよこにおシコり報告するシーンの気持ち悪さ、ねっとり感と言ったら原作以上だ。更になよ子を監禁した時には学生時代の写真を部屋中に貼り、なぜかおさげ眼鏡の女装までする。弟と和気藹々に悪事をする様は妙に無邪気で楽しそうであり、話に彩りを加えてくれる。鉄っちゃんと言えば私が原作で最もお気に入りのエピソードであるシャブ極道編のメインヴィランである。将造の親友であり、命を懸けて殺し合う宿敵でもある。悲しい定めと戦いの中に咲く友情の華。暴力こそが二人にとって最高のコミュニケーションであるが故に、その感情全てが伝わるのだ。そんな鉄っちゃん演じる村上淳氏の愛と暴力に狂い落ちていく演技は素晴らしい。本作の鉄っちゃんはシャブだけでなく妹を人質に取られ、倉脇の鉄砲玉に身を落としている。そんな中、唯一の肉親たる妹を亡くした鉄っちゃんは心の平衡を無くし、ただ殺し合うだけのマシーンと化す。そして将造の前に立ちふさがるのだ。更に本作では読み切りの「真・極道兵器」の主人公竜二の要素も融合している。妹の死体をダッチワイフ兵器に改造して将造と戦うシーンは正に石川賢の遺伝子を感じた。そんな落ちていく男を見事に表現しきっている。落ちて落ちて、堕ちて、落ちぶれた先に全てを失って、最後に残ったのは将造との殺し合いだった。死の間際、思い浮かぶのは二人無邪気に笑ったあの日である。二人の友情、その声には妖しい色気さえある。

 次にストーリーだ。本作は倉脇編とシャブ極道編を主軸とした改変をされている。映画一本で完結するようにしたのはスタッフも事情を分かっていたという事か。確かに極道兵器が続編作れるまでに売れるわけがない。だからか、この映画は一本で完結するように作られている。その分、原作要素をこれでもかと詰め込んでいる。深い原作への愛が感じられる改変だ。特によかったのは鉄っちゃんとの友情をフォーカスした点だ。ところどころに回想を挟んで因縁をアピールし、兄弟の印である入れ墨を使ってその仁義と友情を印象付ける。終盤、死んだ鉄っちゃんの入れ墨を腕に宿し、敵討ちの一撃を喰らわせるシーンは涙なしに見られない。もう一つ上げるとするならば倉脇の用意した切り札だ。倉脇は将造の対抗するためあるものを用意するそれは核だ。原作のカイザーを思い出させる。そしてその起爆スイッチこそが「地上最強のチンポ」だ。私はこれを見た時膝を打った。原作にないのに原作から出てきたとしか思えない。石川賢節の何たるかをわかっているではないか。個人的にはこれを思いついただけで百点を献上できる。まさに石川賢だ。そしてあのオチ。言葉でうまく表せないがただ一つ的確な表現があるとしたら「ドワオ!」だ。

 そして極めつけはアクションだ。原作の極道兵器は爆発と破壊、とにかく火器をぶっ放すド派手なアクションが目玉だった。そしてそれを成立させる石川賢の超絶画力が岩鬼将造という男に説得力を与えている。しかし映画では石川賢のような画は作れない。ならどうするか。そう、坂口拓だ。坂口拓をとことん使い、肉弾アクションで魅せる。この割り切り方が功を奏した。原作とは違う実写ならではの魅力だ。本作は純粋にアクション映画としてもクオリティが高い。その分極道兵器の由来たる銃撃や爆発の合成は少し安っぽいが味と言える範囲だろう。殺人ナースをミンチにするシーンはバカバカしさが強調されて石川賢らしさを強く感じられる。とにかく、坂口拓のアクションは素晴らしい。事務所の机での戦い、刀を使った殺陣、納涼花火大会、そして鉄っちゃんとの喧嘩。どれもよかった。動きだけでなく撮り方やギミックも凝っている。殴った壁に開いた穴で破壊力とスピード感を演出したり、影を使った演出でCGを誤魔化しつつ踊りの要素を取り入れてこの夏一番の波のエッセンスを再現したり、様々な工夫がなされている。ダッチワイフバズーカをフィストファックで相殺するシーンは圧巻だ。

 

 実写化とはかくあるべし。そう手放しで言える作品だった。勿論粗がないわけではないがそれを補って余りある魅力にあふれている。もし君が映像で石川賢を感じたいのならうってつけの一作だ。おすすめする。

 よい石川賢ライフを。