ある石川賢ファンの雑記

石川賢の漫画を普及し人類のQOLの向上を目指します

石川賢紹介 第十一回 爆末伝

「ロケットで射出されてクソを漏らす土方歳三が出る漫画」

 

「俺は、きさまの言う通り大悪党かもしれん。銭のため密貿易をしたり人を殺したりした͡͡コトもある。女を強姦し、イカサマトバクを手を出したし…放火もやったことがある!!」

「俺は武士だ。俺はあくまでも、これに生きる。こいつには、お前にはわからぬ魂がある」

 

 石川賢漫画の中でも特に好きな一作を紹介しようと思います。その名は爆末伝。見ての通り幕末を舞台とした作品です。

 小栗藩は江戸に攻め上る官軍に対抗するため、外国の商人から武器を買おうとしていた。その仲介人として呼ばれたのは勝海舟、そしてその弟子馬並平九郎。彼はフリーマンを名乗る破天荒な男であり、戦闘学の天才でもあった。一方小栗藩は代表として田村新八郎を同行させた。彼は根っからの武士であり、未だ剣に拘る頑固で昔気質な侍であった。平九郎と新八郎。正反対の二人が官軍や外国を相手に繰り広げるは爆風血風乱れ飛ぶ大戦争。日本の未来はこの二人に託された!

 石川賢が描く歴史漫画が普通なわけがない。蒸気戦車、からくりロボット、木造空中戦艦に人力戦闘機。奇想天外摩訶不思議な兵器が目白押しだ。それだけではない。人間同士の戦闘もまさにダイナミック。平九郎の戦闘スタイルは正に全身火薬庫。次から次へと出てくる銃と爆弾。ぶっぱなす快感は正に天国敵は地獄。近代戦の夜明けを見つめ最新兵器を使いこなしありとあらゆる方法で効率的に人を殺す。彼こそまさに戦の申し子である。そして新八郎は剣士だ。銃弾飛び交い火薬の匂いで満ちた戦場を剣一本で押し通る。それは矜持であり意地だ。日本から失われつつある侍の魂と心中せんとする男の美学である。そう、ちっぽけで安っぽいプライドに命を懸ける男のロマンだ。それに相対する敵もまた強烈である。敵の名は伊藤梅乱。世界を征服するために官軍、イギリス軍に取り入り戦で成り上がろうとする大悪党だ。目的のためなら師を殺し国を売る。平九郎とは元同門であり因縁の相手でもある。その戦法は悪辣にして不滅!土手っ腹に銃弾ぶち込もうが何度爆発に巻き込まれようがしぶとく生き延び、平九郎の命を狙う。剣だろうが銃だろうが戦艦だろうが使えるものは何でも使う。ただ自分の野望のために戦い続けるのだ。そして、その背後にいるのはイギリスのロビンス伯爵だ。奴はなんと、石川賢漫画でも珍しい美形悪役だ。敵も味方もゴリラばっかりの中で、なんと美形悪役なのである。しかし奴もまた石川賢の描く人間、苛烈にして残酷なサイコ野郎だ。東洋に蔓延るウジ共を抹殺すると高らかに言い放ち、敵だろうと民間人だろうと構わず焼き払い爆風の中に葬り去る差別主義者だ。その所業には梅乱も引き気味である。そんな強烈な登場人物と兵器が織りなすこの戦い、見ずに死ぬのはもったいないと思わないか。何よりも、この戦争は楽しいのだ。石川賢は誰よりも戦いを楽しく描ける。美化しているのではない。誰もかれもが醜く死んでいく悲惨な戦争を楽しく描いているのだ。どうだ、見てみたいと思わないか。男なら一度は見てみたいと思うはずだ。それが、それこそが石川賢だ。

 本作の魅力はその超画力によるアクションシーンだけではない。それは平九郎と新八郎、この二人の魅力的な男であり、その関係性でもある。上に書いた通り二人の性格も戦い方も正反対である。そんな二人を結びつけるのは、日本を守ることだ。官軍と幕軍が戦えば官軍が勝つだろう。しかし、戦が終わり官軍が疲弊しきったその時に、イギリスは日本を攻撃し、植民地にするだろう。なればこそ、二人は官軍と戦い、勝海舟が官軍を説得する時間を作ると決めたのだ。フリーマンも武士も、それ以前に日本人であるから手を組めるのだ。しかし、その出会いは最悪であり、お互いがお互いを認めてはいなかった。剣にしがみつく新八郎を平九郎はからかい、新八郎は平九郎が気に食わんと態度を隠さない。しかし、二人をいくつもの死線をくぐり互いを認め合う。終盤、平九郎は五稜郭で武士に拘っていては勝てないと土方歳三に話す。当然周りは怒り、怒りは斬撃となって放たれる。そんな平九郎を庇ったのは新八郎であった。ふしだらで適当なようで心には国を守る誠を燃やすこの男が必要だと、日本人として武士云々関係なく一致団結しないと勝つことはできないと、新八郎が平九郎を認めた証がそこにあるのだ。そんな平九郎が死地に赴く相棒として選んだのは新八郎である。迫りくる戦艦ユルシーズと戦うため、ロケット射出の相方に選んだのは紛れもない新八郎その人だ。その友情、信頼、素晴らしい。

 まさに爆末激動の時代と戦争は物語の進行と共に加速してゆく。その先に待ち受けるのはなにか。歴史の中に吹き荒れる嵐が何を壊し何を作るのか。さあ、今こそ確かめよう。今がその時だ。

 よい石川賢ライフを。